勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"環境と人権を征する中国覇権「溶解する民主主義。」2/4”

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。メディア各方面では感染症報道が再熱し、定型句のように飲食業・観光業・イベント業が問題だとされる論調が伝播(でんぱ)しています。私自身、この全ての産業と関わりがありますので、多少感情的な要素もあるのかもしれませんが、そこを省いたとしても少々違和感を感じるところではあります。

 

 勿論、変数が多い状況ですので朝令暮改や手探りの対策などに理解は示します。また、未知数であるが故に局地的な対策も難しく、医療環境を守るためには一定の犠牲も必要でしょう。ただ、GoToキャンペーンや飲食店の夜間閉鎖を行ったからといって人の往来がなくなるわけでもなく、大多数の人が関わる移動は通学や出勤、出張のような“日常生活に付随する移動”の筈です。今回の感染が労働者層を中心とした家庭内感染である点を鑑みても、仕事や通学の中で持ち帰っているケースは十分に考えられます。

 

 何より“不要不急”という言葉は非常に危険な負の側面がある発想だと考えています。飲食や観光、イベントを指して不要不急とするのであれば、そこに従事する人々は “社会的に不要” であるかのような疎外感を生みますし、他方で通常通り営業がなされている経済活動が本当に不要不急ではないのかと考えると、そうでもないのが現実です。極論ではありますが、最低限の食糧や日用品生産業、配給を行うロジスティック業、病院や警察などのエッセンシャルワーカー以外は全て“不要”ともいえます。ただ、それでは人類の培ってきた全てを否定することとなってしまいます。

 

 また、人の行動を制限すると陽性者は減りますが、感染症の死者数が累計で2,282人(12/6現在 厚生労働省調べ)に対して、自殺者数は10月のみで2,153人(前年同月比+614人 警察庁調べ)で、10月の完全失業者数は215万人(前年同月比+51万人 総務省調べ)と増加しています。勿論、日本の自殺者数は元々高く、4-10月の累計前年比では+473人ですので感染症による死者数の方が圧倒的に多いです。問題は10月の急激な増加数と年齢別の内訳で、まだ未発表なので数値は挙げられませんが、高齢者を中心とする感染症に対して、仮に労働者層の自殺者が多い場合は失業者数と共に社会負担に於ける割合が増えることとなってしまいます。

 

 短絡的な “不要不急論” はつけを将来に回し、一部事業従事者に疎外感や絶望感を与え社会全体に歪みをもたらすこととなるように思います。特に前述の飲食・観光・イベント(サービス業)業は(小売・漁業を除く)他業種に比べ非正規雇用の割合が多い業種なので、民主的に少数派である立場の方々が圧力を受ける構造にはしてはならないでしょう。


 結局のところ、エビデンスを重視しながら基本的感染症対策を徹底的に行い、全業種でリモートや非接触システムを最大限に利用しつつ、医療資源を国家戦略で拡充するしかありません。この上で発生する感染者や自殺者、経済損失は冷たいようですが織込んで日常生活を送るしかありません。

 

 さて、前文が長くなってしまいましたが今回はそんな多数派による民主主義と、前回("大統領選と都構想の先に「溶解する民主主義。」")に続き国際情勢について考察を行います。

「溶解する民主主義。」2/4

第1項 "大統領選と都構想の先に"

第2項 "環境と人権を征する中国覇権"

第3項 "江戸の匂いを漂わせる、令和版「民主主義」"

第4項 "民主主義を溶かす 3つの幻想"

 

■民主主義のジレンマ

 大統領選挙の結末はバイデン氏の勝利ということでほぼ決着がつきました。この点に関してはネット上で陰謀論などが取り沙汰されていますが、大きく変わることはないでしょう。ビジネス業界出身のトランプ氏とは違い、政治家キャリアの長いバイデン氏は従来通りの“世界を牽引するアメリカ”を体現することとなる筈ですが、その中心に位置するのはトランプ流のディール合戦ではない環境重視の世界観とBlack Lives Matterに代表されるような人権問題です。

 

 これはバイデン政権及び世界の中核として対中政策にも大きな影響を与ます。日本のゼロ・エミッション宣言からも現れているように、世界の潮流が環境問題にシフトしている中で同様に、中国も2035年を目処に新車販売を環境対応車にする方向性を示しました。これは後述しますが中国にとっては環境問題に関係なく、覇権国家を目指す上で欠かせないEV産業への投資と、世界の投資資金を集めるための名目でしかありませんが、環境を是とするバイデン政権にとっては対中批判が難しくなるポイントでもあります。

 

 当然ながら、米国が国家戦略として中国脅威論を持っている以上、バイデン政権に変わったからといって、対中政策が軟化することはありません。ただ、バイデン氏の上品さ故に軍事行為を伴う圧力では一線を越えられない姿勢を中国が見過ごすほど甘くもありません。恐らく中国は国益に沿った環境対策を強化しつつ、人権問題に目先の対処をし、米国や国際社会の態度を軟化させる方向性で動くでしょう。

 

 つまり、バイデン氏が親中路線であるかではなく、世界の潮流がかつて軍事力で二分した冷戦時代とは違い、環境と人権のような結果の不透明さを伴う基準で中国を抑制しようとする以上、中国の肥大化に有効な圧力は失ってしまうこととなります。日本はカルト的にトランプ氏の再選を願うより、環境問題で存在感を示しながら独自の安全保障体制を構築する必要があります。

 

 他方で米国内では依然として白人保守層の疎外感も強く存在し、民主党が環境と人権(多様性)に特化するほど、国内の分断は加速してしまいます。次期政権は反トランプとして覇権国家を標榜する反面、国内問題、中国問題、感染症問題と向き合う課題が多くその実は国際社会に振り向けるリソースは殆ど残っていないことが現実です。一党独裁の中国とは違い民主主義国家のジレンマともいえる現象でしょう。

■“非”民主主義国家による覇権

 本ブログでも以前より指摘している通り、米国の影響力が内側へと向かう中で中国は覇権を確固たるものにしようとしています。先に上げた環境対応車へのシフトも、EV産業での先行を狙うことや、ましてや環境意識が高まったということではありません。環境対応車シフトの本質は、歴史的に自動車産業を征する国家が覇権国家として世界のモビリティ産業を征してきたことに由来し、従来の自動車産業とは全く異なる技術が必要な “EV(自動運転車)”に集中投資を行い、自動車大国として成長を遂げた米国と日本を巻き返す狙いがあります。

 

 先に合意されたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)も基本的にはASEANが主導的立場となりますが、中国の国力を鑑みると影響力を無視することはできません。またRCEPはTPP(環太平洋パートナーシップ)と重複する国も多いため、そのどちらにも属さない米国を牽制して国際エコシステムを構築する大きなチャンスでもあります。

 

 非難の対象となる人権問題も、香港国家安全維持法で見られるように国連人権理事会では中国支持が53カ国で反対は27カ国にとどまっています。これは多くの発展途上国が少なからず一党独裁や政権の腐敗、民族紛争、財政危機など、政治的、文化的、経済的に中国と似た問題や依存関係があり歩調を合わせる方が国益となる国が多いためです。中国による軍事行動も国連安全保障理事会で常任理事国である中国は国連憲章第27条によって拒否権を行使し、安保理の決定を覆すことができてしまいます。

 

 つまり、現行の国際社会では中国を抑制する手立ては多くありません。このような状況下で中国は、月面探査を可能とするロケット技術、大規模経済協定への参加、基軸通貨を可能とするデジタル通貨の実装、新自動車産業での主導権と、覇権国家が英国から米国へそしてソ連の台頭と日本の栄枯盛衰を包括すかの如く覇権国を象徴する政策をこの数年で集中的に実行しています。

 

 かつては軍事力の増強と人口ボーナスによる国内市場、そしてサプライチェーンとしての役割を担ってきましたが、現在は覇権国家として先進国(特に米国)が持ち得る象徴的システムの構築へ集中投資をしている印象です。私自身は、過度な中国脅威論には懐疑的ですが、それでもここまで明確に覇権国家の象徴的事例を実行する国家戦略を隣国の“非民主主義国家”が行っていることには一定数の脅威を感じざるを得ません。

 

 かといって日本が強硬路線を行うことは現実的ではありませんし、対米関係の改善が望めない中国も日韓に対しては概ね融和的姿勢を示すこととなるでしょう。日本もインバウンド需要やグローバル市場、移民の重要性はコロナ後であっても変わることはないので、経済的に融和姿勢を歓迎することとなります。但し、過去の記事でも再三指摘していますが、安全保障や国内市場の知的財産権や情報保護などには明確な線引きが必要となります。

 

 今の中国に対し、国際情勢や地政学的リスクを鑑みれば日本が強硬路線を行うことはほぼ不可能である中、経済的融和を軸に安全保障、情報保護、知的財産権の保護を徹底する道筋しか存在しないのです。これは米国も中国も日本自身もよく理解している筈で、だからこその安倍前首相と二階氏のツートップだったと言えます。



 本日はここまでです。民主主義に於ける分断は当然であり、歴史的に何度も繰り返され、齟齬を内包しながら感染症や公民権運動のような歴史的転換点で是正されるものです。しかし、今回の分断に注意が必要な点は、大統領選のような分断を伴う民主主義(選挙)に対して緩衝材となる儀式(敗北宣言)が行われていない点、そして大阪都構想では将来的な地方改革の波を途絶えさせてしまった点にあります。更に、一党独裁国家が世界秩序の覇権を握ろうとしていることも相まって民主主義のあり方に変化が求められる社会情勢となりつつあります。

 

 不正投票や短絡的なシルバーデモクラシー以上に、民主主義のアップデートについて議論を行わなければならないでしょう。今回は少々、前文の感染症問題を取り上げ過ぎてしまい、情報量が多くなってしまったので民主主義のアップデートに関しては次回に寄稿したいと思います。


 

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-参考・出典-
新型コロナウイルス感染症についてー厚生労働省HP
令和2年の月別自殺者数についてー警察庁HP
労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)10月分結果ー総務省統計局HP