勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"大統領選と都構想の先に「溶解する民主主義。」1/4"

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。日本の社会構造が抜本的な変化を迎えようとしている昨今に於いて、"人口減少" "少子高齢化" "余剰人材" "労働生産性"などの課題が顕在化しており、その対策として"ベーシック・インカム論"を2回に亘って考察を行いました。

 

 前回も指摘しましたが数年前のデジタル化がそうだったように、批判だけの一人歩きや、“現状維持派”による感情や慣性での否定論などによって議論にすら上げられない空気感を作るのではなく、必ず訪れる “着地点” を見据え、備え、議論や検証を重ねることこそが私達、社会全体にとって有益な戦略になると考えています。

 

 ベーシック・インカム論は大きな変化を生む議論です。純粋な社会福祉受給者や周辺のエコシステムで生活する方々にとっては抵抗感も存在するとは思います。しかし、本稿でも数々触れてきた社会課題に於いて、"未来志向の醸造" を行わなければならないタイミングにあるのではないでしょうか。

 

 今回はそんな "変化" と "維持" の世界線で行われた先の大阪都構想と米国大統領選について考察を行います。

 

「ベーシック・インカムの本質と実現性」
第1項 "ベーシック・インカムは実現可能というマインドを醸造しよう"(アゴラ転載版)
第2項 "ベーシック・インカムという成長戦略の世界線で”

  

「溶解する民主主義。」1/4

第1項 "大統領選と都構想の先に"

第2項 "環境と人権を征する中国覇権"

第3項 "江戸の匂いを漂わせる、令和版「民主主義」"

第4項 "民主主義を溶かす 3つの幻想"

 

■シルバーデモクラシーの構造

 大阪都構想は先日、17,000票差によって否決されましたが、選挙の状況や反対派の意見を聞く限り、前提とする論点にズレを感じました。大阪都構想の本質は "大阪を地方都市から東京都と並ぶ第二の大都市にし、金融、企業、観光、ハブとしてのグローバルな成長戦略を行うこと"だった筈です。しかしメディアをはじめ多くの方々はコスト問題にのみ論点を絞ってしまいました。更に反対派の中では、維新が嫌いな方、思想や支持政党が反対派である方、感情的に現状を維持したい方など、本質的な論点ではない論点で反対する方も存在しており、大阪都構想の本質とは離れた "反維新" "近視眼的コスト回避" としての意思表明でしかありませんでした。

 

 勿論、だからといって"無効”とはなりませんし、民主主義による結果を覆すこともできません。これは一つの正当な結果です。しかし、大阪都構想のような非常に政治的であり、長期的マクロ視点が必要な政策に於いて、乱暴な表現ではありますがある種の “素人の判断” に委ねる方法論が正しかったのかには、疑問が残る部分でしょう。

 

 また、これは少子高齢化の民主主義国家が直面する問題でもありますが、"シルバーデモクラシー問題”も存在します。但し、大阪市に於いてこちらは慎重に扱う必要があるテーマです。大阪市の場合、単純に数字だけを見ると45-49歳の人口が最も多く、高齢になるにつれて人口が減少する傾向にあるので議論の前に、基準とする区切りや定義を設定しなければなりません。

 

 例えば、都構想がマクロ経済に由来した政策であることを鑑みれば、変化を望む層は現役世代の20代後半から40代頃までとなるでしょう。その反面、"高齢"つまり保守的な層とは、生活環境を変化させることが難しい世代と、変化の必要性のない非現役世代までを含め "50歳以上" と定義し、更に若者でも非就業者(主に学生)を除けば更に賛成層はマイノリティーとなってしまいます。

 

 一概にシルバーデモクラシーといっても、人口数に依存するケースと今回のような保守層と現役世代の分断に起因するケースもあります。後者は真っ当な民主主義でもあるようですが世代間対立として非現役世代有利なシルバーデモクラシーであることに変わらず、この点は少子高齢化社会に於ける地方創生のボトルネックとなってしまいます。

 

■リソース活用の地方創生

 他方で東京都の一極集中から地方分散が求められる今般、地方側の受け皿を作るには従来のような国からのトップダウンで運営する行政システムや、新陳代謝が硬直してしまう組織構造、補助金に依存する財政状況などを改革し、地方自治が自走することが必要となります。

 

 つまり、人口減少の最中で地方分散や地方創生を実現するには、土建事業や補助金を投じるのではなく、グローバル化や企業誘致、規制緩和、産学官民連携のような、現役世代にとって魅力のある自治機構を設けなければ難しくまた、少ないリソースを最大化しなければならない日本では、成長戦略の要になる課題であるということです。

 

 ただ、こうした変革には既得権益や利権の解体が伴うので、地方改革の波が波及しないためにも全力で阻止されてしまうものです。今回の都構想の本質的評価とは別に、長期視点の成長戦略に於けるコンセンサスを得る難しさが内外に露見してしまいました。今後は政治からのアプローチによるコンセンサスを避けて、各企業や業界によるロビー活動を軸にした改革を行うこととなるでしょう。

 

■米国大統領選挙

 問題を抱えつつも民主主義としての結果を尊重した大阪都構想とは違い、米国大統領選は混沌を呈しています。民主党のバイデン氏の勝利として慣行に則り、勝利宣言、政権移行準備、外交活動が進められています。しかし、現職のトランプ政権は郵便投票の公正性を理由に、敗北宣言をせず法廷闘争を行う構えであり、共和党も支持する姿勢を示しています。

 

 両陣営に批判があるにせよ、この問題の本質は郵便投票の公正性以上に、米国内には2016年以前から分断が存在していたという点にあります。米国の分断は米国メディアを含めて各所で指摘されていますが、その多くが “トランプ大統領によって齎(もたら)されたもので、大統領が変われば変わる”という考えを軸に論じられています。この論点も外交分野に於いては正しいかもしれませんが、国内の白人中間層と有色人種及び大手グローバル企業との分断についての文脈が欠落しています。

 

 元々、2000年以降の情報産業によって製造業に従事していた中間層の生活が徐々に貧しくなりそんな中、オバマ前大統領も中間層の雇用拡大対策を行いましたが製造業の雇用は悪化し、貧富のさが広がってしまった経緯があります。更にこの中間層に位置する白人には移民などの有色人種層が増え続けるとマイノリティーになってしまうという現状が大きな社会不安としてあります。特に民主党はオバマ前大統領に代表されるように、多様性を推進していますがそれは貧困に苦しむ白人中間層にとっては逆差別と感じているかもしれません。

 

 B.L.M.運動の対立も正にこの構造です。原罪として米国には黒人差別が存在する反面、現代の白人にとって必ずしも差別意識がある訳ではないのにB.L.M.運動の標的とされ、言動や振る舞いに注意しなければならなくなっています。このような米国内に “既に存在した” 分断がトランプ大統領を誕生させるきっかけとなったのです。

 

 そして今回の大統領選が僅差だったことで分かるように、国民はトランプ大統領の4年間を評価しまた、民主党の白人中間層を救済しないリベラルな政策に危機感を抱いているということです。このように、”トランプ大統領の存在如何に関わらず分断は存在する” という本質的な問題をメディアや民主党、国際社会がしっかりと向き合い対処しなければ、オバマ政権時代のように分断を深くしてしまう可能性があります。


■バイデン陣営の方向性

  バイデン氏の役割は飽くまでも"反トランプ"でしかなく、社会に大きな変化を与る存在とはならないでしょう。実質的には2024年の次期大統領選挙にカマラ・ハリス氏が出馬するための前哨戦ともいえます。これは従来の民主党が"労働者のための党"から"マイノリティのための党"として、環境や人権問題を軸足にするという今後4年間の政策方針を決定付けているともいえます。しかしそれは先進的なリベラルであると同時に、先にも指摘しましたが、多くの白人労働者階級にとっては阻害的な4年間となってしまう可能性も高いものです。勝利宣言での希望的演説とは裏腹に、バイデン陣営及び米国内に於いて、非常に困難な情勢は続くこととなります。

 

 このように国内問題で余裕のないバイデン陣営が、東アジア地域の秩序形成へ大きなコミットメントを示すことは難しいでしょう。勿論、先の尖閣諸島での発言は米国の国家戦略として既定路線なので当然として、それ以上の軍事的圧力を中国に行えるのかまた,日本独自の秩序への貢献を同盟国としてサポート出来るのかは定かではありません。少なくとも中国は、1期限りと予想されるバイデン政権へオバマ政権時代同様、国際ルールを遵守する姿勢をみせつつ、米国の衰退と東アジア地域のデカップリングを目指し、海洋進出や一路一体、一国二制度、デジタル革新、途上国支援を推し進めるでしょう。

 

 外交では経済、軍事、人権を切り分けて交渉することが重要ですが、全てのバックボーンは繋がっている事実を鑑みると無策に切り離すのではなく、多角的に対処する必要がありその点では、優秀とはいえませんが政治素人ながら、トランプ氏の対中政策は理にかなっていたのかもしれません。

 

 今後、米国のメンツとして,バイデン氏の勝利が固まっていくでしょうが、日本人として見極める必要がある点は米国の内政問題ではなく、現状の米国を"国際社会がどのように評価するのか"そしてその評価が"どのような力学を生むのか"です。




 本日はここまでです。日本のTwitterでもトランプ派とバイデン派に分かれていますが、本当に大切なことは、大統領が誰に決まろうと、安全保障に問題のない国内体制を早期に構築することです。そのために憲法改正をはじめ、財政を圧迫する社会保障費や過去の利権を守る偏った民主主義などと向き合い、世代間対立や思想分断をするのではなく、抜本的解決へと導く議論が求められます。

 次回は引き続き、今後の国際社会と民主主義が抱える問題について考察したいと思います。 

 

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[黒川 和嗣(Kazushi Kurokawa)Twitter ]

 

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