勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"江戸の匂いを漂わせる、令和版 民主主義「溶解する民主主義。」3/4"

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。前々回より、民主主義について考察を行ってきました。第1項の大統領選挙では、バイデン政権が反トランプとして時勢を考慮せずにオバマ政権時代に逆戻りしてしまう点、そしてその結果、米国が抱える諸問題(保守的な中間層の孤立)を解決することも難しく、米国の衰退が緩やかに続く点を指摘し、大阪都構想でもシルバーデモクラシー(現役世代と非現役世代)として米国同様に分断が存在する点、そして安易な住民投票は地方創生の障害として楔を打ち込み、分断を露見しただけで終わった点、住民投票は維新の政治的強かさが足りなかった結果である点など、直近の選挙から民主主義の現状について考察を行いました。

 

 続く第2項では、民主主義国家がコンセンサスを得る為に時間を労している間に、非民主主義国家が虎視眈々と国際秩序の再編を実行している点について指摘しました。歴史的に共産主義や社会主義が“正義”であるとは認められない反面、ワクチン外交を含み国際社会が中国という新たな国家システムを迎え入れようとしていることも事実でしょう。ジェノサイド(民族浄化)や軍事圧力を行う対象が、少数民族や有色人種の敗戦国など、少数派である限り、大きなテーマとされ難い点では、民主主義の象徴ともいえます。

 

 日本社会でも、今般の感染症に於ける観光、飲食、サービス業の非正規雇用への圧力や医療従事者への差別、報酬カットなど、少数派の実態は重視されないものです。先にも挙げたように、私自身は共産主義や社会主義を推奨していませんし、民主主義、自由経済の恩恵を享受しています。ただ、だからといって時勢にそぐわなくなりつつある民主主義制度を頑なに守のではなく、必要に応じて柔軟にアップデートはすべきでしょう。

 

 今回は、そんな“民主主義のアップデート”について、考察を行います。

 

「溶解する民主主義。」3/4

第1項 "大統領選と都構想の先に"

第2項 "環境と人権を征する中国覇権"

第3項 "江戸の匂いを漂わせる、令和版 民主主義"

第4項 "民主主義を溶かす 3つの幻想"

 

■成長曲線を糧とする民主主義

 民主主義の問題といっても、政策決定コストが独裁国家より高いことや、思想、身分による分断が存在することなどは既に織込み済みなので、それだけで大きな問題とはいえません。しかし飽くまでもそれは、人口が満遍なく増加し、不況下であっても経済成長へと安定的に向かい、そして変化のスピードが情報産業以前の緩やかさである、という前提条件を必要としています。何より“民主主義は公平で平等”とされますが、歴史的には人種差別や男女不平等など、“民主”が指し示す層は画一的(≒単一の人種、階級、性別、思想)な人々を対象として制度設計されていたことは忘れてはいけません。

 

 つまり、少子高齢化により人口比率が特定の層に傾き、人口減少によって量的成長が鈍化し、情報産業の到来により変化のスピードが早くなり、正規雇用、非正規雇用、個人事業主、修学者、非就業・非修学者、男性、女性、LGBT、国籍、人種、身体的自由度、経済的自由度などダイバーシティ(多様性)の広いコンセンサスを得るという従来、民主主義が内包してきたコストを超える世情では、機能不全が起きても然るべきだといえます。

 

 更にSNSの情報感染(インフォデミック)が加わり、不確実な情報や国益に反する情報などが、国民の総意であるかのように統治機構へ圧力をかけて、誤った政策へ誘導してしまうリスクが高まります。乱暴な表現ではありますが、言わば経済が退行する世界でコストだけが大量に増え続ける状態です。

 

 ここに “第2項 環境と人権を征する中国覇権” で指摘したように、非民主主義国家が台頭するに至った理由があります。中国の意思決定スピードは言うまでもなく、将来の人口減少を、テクノロジーによる高付加価値と諸外国とのエコシステムで解決しようという答えに達した結果、テクノロジー発展とデジタル通貨、周辺国への軍事展開、経済協定の締結、債務外交など “アライアンスの囲い込み政策(≒覇権国家)” に全力で投資をしているのです。

 

 他方で日本は、既に人口減少曲線に入っていますし、労働生産性はG7の中で最下位です。更に現役世代と非現役世代の乖離を抱えている限り、国家戦略を進める意思決定が停滞してしまいます。その先行事例がまさに大阪都構想でした。この議論を先延ばしにして、外国人研修生や省人化でお茶を濁そうとも、必ず自らの首を締めることとなるでしょう。

 

 但し、この議論で老人差別を行い、誰かが損をする改革論を唱えるのではなく、損をする人が限りなく少ない議論を行う必要があります。コンセンサスの得難いテーマには経済的インセンティブを設けて議論することが一番の肝なのです。


■民主主義のDXは中枢神経となる 

 デジタル改革でもそれは同じで、明確なインセンティブが存在すれば人は動きます。そのために、デジタルIDを目的として掲げるのであれば、デジタルIDそのものの説明より、デジタル化によって目に見える(国民に直接関わる)コストダウンや報酬を提示しなければなりません。特に若年層は直感的に利便性を感じられますが、非デジタル世代にとっては煩わしいだけですので、その層を蔑ろにするのではなく、求めるインセンティブ(お金なのか、日常クーポンなのか、孫への給付なのか)をみんなで議論することが重要となります。

 

 また、前提として行政のデジタル化が単なる移行ではない点も抑えておきたいところです。行政のデジタル化は、社会保障、税収支、教育、選挙、各種資格など国家機関の中枢神経を担うポジションであり、各省庁の統合が最終的な向かう先となります。つまり、現実的に30年後か50年後かは分かりませんが、現在の既得権益や受益団体は殆ど解体されてしまいます。この解体時期を先延ばしにしてきたことが、平成の30年であり、現職の菅政権が今になって批判を集めだした理由でもあるでしょう。

 

 このような既得権益を超える為には、選挙のデジタル化を進めることが重要な要素として作用します。入り口では単純に若年層や現役世代の投票コストを下げる狙いがありますが、本質は、票と投票者の結び付けによる“1票の価値を人口分布に合わせ変動させる均等化システム”を実装できる点にあります。文字に起こしてみると荒唐無稽かもしれませんが、人口分布が偏り尚且つ、その殆どの人口が経済活動(成長戦略)に然程、関心のない層である以上、国益を守る方法として一考の余地はあります(詳細は“若者は選挙に行こう! は虚無の世界線”を参照ください。)。

 

 ただ、少数派の意見が通ってしまうことで大多数が損をするという、民主主義の基本的な制度崩壊を引き起こす可能性もあります。そこで、考えられるのは“小さな政府”です。


■江戸時代的、令和版「民主主義」

 こちらも荒唐無稽のように映りますが歴史的に日本は、古墳時代(地方分権)→飛鳥時代(中央集権)→鎌倉時代(地方分権)→江戸時代(中央・地方主権)→明治時代(中央集権)と、中央と地方を繰り返し、特に江戸時代は参勤交代や京都と江戸の2大都市化などによる中央と地方の両立支配を行ってきた歴史があり、現代にも活かせるヒントがある筈です。この辺りは“発酵経済と五感的解像度”に寄稿していますのでここでは割愛しますが、国家の役割は飽くまでも全体最適解(多数決の多数派尊重)を求めることですので、政府の規模や多様性が大きくなりすぎるとガバナンスも効かなくなってしまうものです。

 

 飽くまでも極論ではありますが、国家機能の根本が外交、安全保障、社会福祉なので、夜警国家的に大枠だけを担い、細分化された調整は地方自治に委ねても統治機能としては成立するでしょう。もう少し現実味のある制度にしても、地方の各種規制緩和や、再分配後の一部権限委譲、などを行うだけでも民主主義国家として、多様な国民状況に寄り添える施策を構築できるのではないでしょうか。

 

 勿論、地方格差の問題も生じますので、広域連合での協力関係などは今以上に必要となります。このように統治機能を細分化してみると地方自治も存外、荒唐無稽でもないように思えます。しかし、この地方改革が大阪都構想によって否定されてしまったことには、些か虚しさを感じてしまいます。

 

 

 本日はここまでです。米国大統領選では分断を。大阪都構想では地方の将来。そして隣国である非民主主義国家の台頭、と一見接点のない項目ですが日本の民主主義制度を考える上で全ては通奏低音で繋がっています。そしてそれは従来の民主主義制度に限界や欠陥が出始めていることも事実でしょう。これは、数年で成立する問題でもありませんし、こんなニッチなネタしか扱わない本項を読んでいただける皆様ならご理解をいただけるかもしれませんが、一般的にコンセンサスが取れるとも思っていません。しかし、長期的に投票格差や地方の活用、デジタル選挙、野党の再編、そして政府機能の整理は向き合わなければならない対象となるでしょう。

 

 平成という30年間は、デジタルやグローバル化、破壊を伴う成長戦略を先延ばしにして、バブル時代の思い出を延命してきましたが、日本はGDPでもインドに抜かれ4位になりアジアの機能も香港とシンガポールに移行してしまう可能性が相当に高い中、そろそろ、抜本的議論に立ち返るべきです。

 

 次回は今回漏れてしまった二大政党制と、感染症の幻想について考察を行いたいと思います。

 

 

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-参考・出典-

江戸時代の地方都市にあった活気を取り戻す首都機能移転 / 山本 博文 / 国土交通省 オンライン講演会

大和時代 / フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)