勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

“民主主義を溶かす 3つの幻想「溶解する民主主義。」4/4”

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。「溶解する民主主義。」をテーマに大統領選や大阪都構想、東アジア地域、長期視点の国内問題を軸として考察を行いましたが、もう少し身近な論点にも触れたいと思います。

 

 これまでの考察通り、民主主義の溶解は多角的な事象に基づいて訪れていますが、根本的な問題点としては “政治の素人化” にあります。些か乱暴な表現ではありますし、私自身も専門家ではありませんが、ここで指す “素人化” とはポピュリズムにも近い概念的な現象を指します。官僚批判もありますが、実質的に国家の運営そのものが選挙の度に一新されては、国家を運営することはできません。しかし今般は、SNSとマスメディアによって情報が氾濫してしまい、政治を左右する国民感情の影響力が高まっています。このような状況は満州事変勃発期のようで、当時のメディアが戦争を煽り、世論がそれに追随した歴史と通じるものがあります。

 

 政治とは常にTrade-offの世界であることを指摘してきましたが、ベストではなくベターであり、ゼロリスクではなく低リスクとして、“妥協的決定”の上に成立するものです。一部のメディアや野党が求めるような、ベストでありゼロリスクの政策など、幻想でしかないでしょう。

 

 今般、日本の民主主義が溶解するにあたり、抱えている幻想と構造について考察を行います。

 

「溶解する民主主義。」4/4

第1項 "大統領選と都構想の先に"

第2項 "環境と人権を征する中国覇権"

第3項 "江戸の匂いを漂わせる、令和版「民主主義」"

第4項 "民主主義を溶かす 3つの幻想"

 

■永遠の平時という幻想

 4月に続きメディアでは感染症問題が連日、取り沙汰されています。しかし、“医療現場の逼迫” “不要不急の要請” など、論点は半年以上を経ても変わることはありませんでした。ここまで医療リソースの拡充、つまり人材の確保と受け入れを行う病院が確保できなかった理由には、法的な規制問題と感染抑制が国民の努力によって成立してしまった点にあります。

 

 例えば人材問題であっても、全ての業務が医師や看護師でなければならない訳でもなく、業務やオペレーションを細分化し、水平分業として余剰人材を動かせば専門家の生産性を上げることが可能な筈です。当然ながら、素人を病棟に出入りさせるリスクは高いですが、大前提として“医療緊急事態宣言”を出しているように、緊急事態とは有事であり “準戦時下” として大胆な対策を行うことが求められます。

 

 しかし、4-6月の対策期間では日本人の習慣(マスク着用、非接触、手洗いうがい)と経済的犠牲の元、一定数の成果を納めてしまったので準戦時下としての規制緩和より、“平時のルールで如何に成果を上げるか”だけになってしまい、効果的な手段が取れずに第3波を迎えることとなりました。

 

 他方で、先日の発表では飲食店への時短営業に罰則規定を盛り込む議論がなされましたが、これは医療現場を受け皿とするなら、蛇口(発生源)を閉めない限り受け皿のサイズを広げ続けなければならない、という発想なので政策の正しさはさておき、理にかなってはいます。この点は既に医療が逼迫してしまっているので、長期的な損失を受け入れざるを得ないですが、それでも差別や報酬問題、受け入れ後の経営難など、国の支援やメディアの報道姿勢で改善できる要素も残っていることにも、目を塞いではいけません。本質は準戦時下として扱うことであり、高額報酬や大型の経営支援、国家主導の設備投資は行うべきでしょう(※1先日、医療支援が発表されました。本項執筆12/20 )。

 

 また、差別を助長する原因でもあるメディアの過剰報道は、準戦時下として規制されても然るべきだと思います。“医療緊急事態宣言”を出す以上、平時が永遠に続くという幻想を、今からでも捨てなければならないでしょう。

 

■幻想のインフォデミックとキャッチアップリテラシー

 冒頭でも述べたように、インフォデミックの影響は世論や政治と、広範囲に亘って作用しています。以前も取り上げた不要不急論は、政治的には曖昧で便利な言葉として使い易さがある反面、一部事業者(飲食、イベント、観光)の生活や仕事までも“不要不急”であるかのような疎外感を与える言葉であり、更にそれらの業種には非正規雇用が多い傾向にあるので、少数派として生きにくさを与てしまっています。また、他業種が生命活動に於いて不要不急ではないのかといえばそうではありませんし、不要不急だったとしても、人が人として生きる上で、学問、文化、コミュニケーションのどれが欠けても成立しないものです。

 

 他にも、疫学的には行動制限による感染症対策は効果を示しますが、出生率低下問題※2や現役世代の失業※3、そしてそれらに伴う日本の空洞化を鑑みれば、Trade-offだとしても損失が大きすぎるように思います。一時的な問題であれば、このTrade-offも成立するのかもしれませんが、人間のみの感染症である天然痘の撲滅に13年間(撲滅期間のみを換算1967-1980)を費やしたような世界線で持続可能な対策を構築する必要があります。それは核となる医療リソースを整えつつ、戦略的にインセンティブ与え、経済、精神を可能な限り疲弊させないことにあります。

 

 勿論、このようなことは専門家の方々も重々、検討なされていると思いますが、これまでの過剰な恐怖扇動によって発生している慣れや疲れを指して、“協力的ではない国民” “意識が緩んでいる”のような表現には疑問があります。撲滅の幻想や、生物として本来は存在しない意思力に頼るのではなく、緩急やインセンティブ、具体的なKPIと直結した数値を示さなければマネジメントはできません。

 

 インフォデミックにはメディアの視聴率という経済的側面、民主主義の多数決問題、受信者(視聴者、読者)のリテラシー問題に大きく分けられます。多数決問題は、選挙方法を改善しない限り難しいですが、メディアとリテラシーによって、世論の多数派を動かすことは可能でしょう。インターネットの普及によってシステム上は、専門家や公的機関の情報をストレートに届けることは可能ですが、それを実現する媒体がなく、利益優先のプラットフォームを通してしまうと、正しい情報をキャッチアップできるのかが、個人のリテラシーに依存してしまいます。つまり、このキャッチアップリテラシーを高めることがインフォデミックを予防する解決策となります。

 

 ただこちらは、メンタリストDaiGoさんが研究論文に基づく知識共有メディア(Dラボ)を自身で立ち上げられているように、キャッチアップリテラシーの高低差が実生活の格差へと繋がると気がついた一部の層によって、今後は公的情報(一次情報)に基づく専門家の情報発信を如何に吸収するのかという需要と、それを満たすためのプラットフォームの勃興が進むと考えています。

 

 この知識共有メディアのスタイルは政府も有効に用いる必要性があり、政府発信情報の歪曲防止や教育の質向上など国民への恩恵は多く、民主主義がSNS情報によって左右される時代だからこそ、喫緊の課題でもあります。

 

 とはいえ、ゴシップ的メディアは売れ続けるでしょうし、SNSでの石の投げ合いや既得権益による情弱ビジネスも後は立たないように思います。しかし、ゴシップをキャッチアップする層と一次情報をキャッチアップする層の収入や幸福度、生活水準が大きく分かれる分水嶺でもあり、何より国家運営に大きな影響を与る弁慶となるでしょう。

 

■幻想にしてはならない、二大政党制

 これまで緊急事態宣言、メディアの影響について考察しましたが、民主主義に於ける最も重要な要素は二大政党制です。権力のある政権がメディアやそれによって作られた一部世論に対して強く批判することは難しく、本来であれば野党が軌道修正を加え、国民の反発心をプロの意見に昇華した上で提案することが役割の筈なのですが、多くの野党は素人意見に便乗する形で意見表明や果断な対応を迫ってしまっています。

 

 米国の大統領選では混乱の一因となってしまいましたが、政権がいつでも変わるという空気感は、政策や議論にも責任と当事者意識を付与します。現在の野党も全てが駄目だとも思いませんが、発言や行動は威勢の良さと比べ実行力や責任が不足しているように感じてしまいます。政権与党を監視し、緊張を与える役割が野党であり、“与党の緩み”はそれだけ野党に脅威がないことを表しています。

 

 また、二大政党制によって健全化が進めば、国民投票のようなある種素人に政治的判断を委ねる行為を行うリスクが低減します。対立政党が脆弱であるが故に、プロ同士の擦り合わせではなく、素人の意見に投げてしまう国民投票を行わざるを得ないのです。勿論、法的な制約のもと国民投票を必要とするケースも存在しますが二大政党制が確立されていれば、必ずしもその限りではないでしょう。

 

 とはいっても、直ぐに政権交代ができるのかといえば、現在の野党に政権運営能力が欠けていることも明らかです。だとするとそれを逆手に取って、リベラルな人事を積極的に採用すべきでしょう。仮に次々世代の自民党が若年層、女性起用を推進するとすれば(小泉進次郎氏はこの伏線だと思っています)本格的に野党の優位性は失われてしまう事となります。そうなる前に、今からでも若年層と女性を全面に出して支持層を開拓することも国益に取って重要な要素です。

 

 消えた年金問題の再現を目指して、責任の伴わない果断な決断を迫らずに、必ず訪れるであろうリベラルな組織変革を実践して力を蓄えることが政権交代への道ではないでしょうか。



 本日はここまでです。国家としてのガバナンス問題、インフォデミックに陥りやすいメディア構造、そしてメディア世論を政策に昇華すべき野党の役割。これらが今、日本の民主主義が溶解へと向かっている本質的な問題点ではないでしょうか。安全保障の懸念が強くなる中、国家のガバナンス体制は強化せざるを得ませんし、メディアへの進化圧も既に始まっています。世界を取り巻く民主主義の再編成が、溶解となるかアップデートとなるのかは、全4項の課題と向き合わなければなりません。

 

 全4項「溶解する民主主義。」はここまでです。次回は年末ですので、気の向くままに綴ってみようと思います。

 

「溶解する民主主義。」4/4

第1項 "大統領選と都構想の先に"

第2項 "環境と人権を征する中国覇権"

第3項 "江戸時代からのアップデート、令和版「民主主義」"

第4項 "民主主義を溶かす 3つの幻想"

 

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[黒川 和嗣(Kazushi Kurokawa)Twitter ]

 -参考・出典-

※1菅首相が会見 コロナ患者受入れ医療機関に1床当たり最大1500万円を補助 2万8000床が対象 | ニュース | ミクスOnline

※2コロナ禍で加速する少子化ー2021年には出生数が大幅減|日本総研

※3国内統計:完全失業者数|新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響(新型コロナウイルス感染症関連情報)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

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Photo by Charles Deluvio on Unsplash