勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"口当たりの悪さの先に,喉ごしの良さが待っている 「日本よ、目を背けるな」2/4”

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。前回はBLACK LIVES MATTERを始め、米国の歴史的性質、そして日本の将来像に触れました。日本で語られる人権意識や反権威主義運動など社会課題の多くは、口当たりの良さに終止し、リアリズム的視点、”身銭思考”が存在していないように感じています。

 というのも、BLACK LIVES MATTERには声を挙げても、自国の拉致問題には無関心であったり、安全保障問題は一部右派による杞憂のように扱われています。また誹謗中傷の件であっても、抜本的な倫理観や制度設計の議論よりも、石を投げていた人にまた(匿名で)石を投げ返すことに終始し、感染症対策の件でも、リアリズムの無い完全な自粛を目指すことで、政治家も企業も評論家もメディアも国民でさえも、責任や社会的リスクから目を背けてしまっています。

 厳しい表現になってしまいましたが昨今、技術革新によってシームレスな社会に向かっているからこそ、安全保障や社会課題の解決へ向けて、口当たりの良くないことであっても、向き合わなければならないのではないでしょうか。今回は敢えて、口当たりの良くない日本の課題について触れたいと思います。

「日本よ、目を背けるな」 2/4

第1項 "BLACK LIVES MATTER を対岸から叫ぶ前に"

第2項 "口当たりの悪さの先に,喉ごしの良さが待っている"

第3項 "若者は選挙へ行こう!、は虚無の世界線"

第4項 "社会変革のための,義務教育トランスフォーメーション"

 

 

■安全保障
 今般、在日米軍の負担費用増額や中国の軍事的圧力が強まる中、安全保障問題が再度熱を帯びてきています。しかし今までの傾向では、反中韓感情が高い勢力と非武装勢力に二極化され議論は深まらず、政治家もSNSで各々の支持層へアピールを行うだけに留まり、多くの国民や有識者は”我関せず”のスタンスを保つ傾向にあります。恐らくこの風潮は今回も同じでそれ事態は然程、国家運営への影響もありませんし悪いとは思いません(国会議員の課題解決能力には疑問がありますが)。

 但し、今回は私が指摘しておきたいポイントは2つで、香港問題やBLACK LIVES MATTERなど、日本から国際社会に何かを訴えるのであれば、国際社会の秩序形成へ ”貢献” していなければなりません。この場合の”貢献”とは経済的援助だけではなく、周辺地域への安全保障を担うことも含みます。特に日本は地政学的に、東西対立構造のディフェンスラインに相当するので、東アジア及び西側陣営の秩序形成には欠かせない重要な立場にあるのです。


 2つ目に、この問題は本来ならビジネスパーソンほど関心を持たなければいけない分野であるという点です。何故なら安全保障とは、周辺諸国とのアライアンスや各国との経済交渉に於いて、必須の要素だからです。確かに、安全保障問題は”分断”の文脈で語られてしまうので、ICT技術や芸術のような”シームレス”を重視する層からは支持がされ難い分野ではあります。しかし安全保障とは分断ではなく、日本の経済、技術、社会構造など、多岐にわたる地盤となる分野であり、ビジネスや技術革新、社会課題解決にとって重要なイシューなのです。

 

 勿論、ビジネスパーソンが宗教や政治について大々的に意思表示を行うことに、問題が生じることも事実ですが、教養として意識しておくことは大切ですし、社会課題解決への足掛かりでもある問題なのです。

 

■女性の社会進出は「あなたに還元される」

 今般、日本でも女性参画がよく謳われるようになりましたが、このテーマの本質は単に女性の活躍を目指すだけのものではありません。“女性の活躍”はあくまでも結果論で、本来の目的は “少子高齢化社会で1人でも多く労働に参加してもらうこと” です。もちろん、多面的には国際協調の中での人権圧力や実際に有能な女性に活躍してもらいたいなど、複数の目的はあるでしょうが、日本の人口動態、高齢者の定年廃止や働き方改革による流動性圧力などを鑑みれば、目的が“労働人口の確保”であることは明らかです。

 

 この前提となる目的を共有した上で議論を進めなければ、一部男性からは女性優遇のように映りますし、一部女性からは参画の強要のように感じ、古い慣習に生きる方々にとっては単に耳障りなだけのテーマとなってしまいます。つまり、男性なのか女性なのかトランスジェンダーなのか、高齢者なのかという問題ではなく、人口減少に向かう日本では須く日本国民全員が(可能な限り生産性の高い)労働に参加しなければ、豊かな生活を守ることが難しいという世界線にあり、女性の社会参画とは男性や高齢者の負担軽減のためにも、議論を進める必要があるということです。

 

 当然ながら、レイプやセクハラ、思想としての蔑視問題などは人としての権利という文脈で横たわっていることも事実です。しかし本来、制度的な側面においては、女性の社会進出と女性蔑視の問題は分けて議論を進めなければ、取り組むべき課題設定が曖昧になってしまいます。この社会進出という側面で考えると、堀江貴文さんが“東京改造計画”で言及されていた生理問題、そして出産問題が重要なところです。また、これは前述の内容と重複する要素ですが、男性側の視点も丁寧に汲み取る必要があるように思います。

 

 生理による身体的・精神的負荷が業務に影響を及ぼし、さらには男性に理解がないため意思疏通の妨げにも繋がってしまっています。また、現代女性の出産率が低下することで生理による負担が長期化している点もあげられます。この生理問題では東京改造計画にある通り、低用量ピルによる生理やホルモンバランスのコントロールは重要な改善方法となります。ピル=避妊薬という意味でネガティブなイメージを持たれるようですが、QOL(Quality of life)の向上にとって有効なアイテムです。

 

 また出産問題では、産休や産休後の復職制度は当然として、子育て環境を共働き前提とした場合、託児所の広義化が必要になるでしょう。同居はしない形での、拡大家族やシェア家族のような共助のコミュニティーもそうですが、結局のところ託児所の規制を緩和し、定年後の高齢者とテクノロジーの活用で運営コストを下げつつ受け皿を増やすしかありません。IT技術の導入は保育士の負担軽減にも繋がるでしょうし、高齢者の参加は認知症防止や人材確保の面でも活かされます。

 

 最後に、男性視点での制度上の問題は”甲斐問題”が挙げられます。恐らく、女性差別反対運動に対して男性の共感が集まり難い一つの要因は、日本に存在する“男性が女性を養う”風潮、そして実際の社会保障や労働環境などでも“どちらかが扶養する”ことを前提とし、往々にして“男性が養う”とされてしまっているからでしょう。これを変えるには、価値観を変えるための育メン的なプロモーションよりも先に、実際の制度設計(男性の産休や共働き前提の社会保障など)を変えることで、感情面の価値観を変える素養を構築したほうが早いように思います。


 このように個人、制度の具体的な障害を潰しながら、価値観や制度が凝り固めっている過渡期ではクオータ制などで半ば強制的に多様性を設けることで、個人的障害、制度的障害、組織的障害、の3方から進化圧を加え、最後に環境による価値観の変容という流れが現実的なロードマップではないでしょうか。1番のポイントは “女性の” と付いていますが、女性のために行うわけではなく、日本全体の成長戦略として老若男女分け隔てなく取り組む課題であるという前提の共有です。少子高齢化による成長の鈍化は、誰かを優遇する議論でも、誰かを非難する議論でもなく、ゼロサム思考のない “私たちの社会課題” です。



 
 本日はここまでです。今回は尖閣諸島周辺で活発化する中国軍の軍事行動に伴い再熱する安全保障論そして、国内に根差す社会課題の一辺に触れました。どちらも一見関係のない事案のようではありますが、安全保障、人権問題、社会課題など、社会の点は線で繋がっているものです。そして、口当たりの良い表層面と、口当たりは悪いが解決へと繋がる深層面が存在し今、失われた30年の先に足を踏み入れようとしている変革期の中では、口当たりの良さに終始するのではなく、悪いものでも飲み込み、その先の喉ごしを体感しなければならない時期でしょう。


 本稿を通してビジネスパーソンなど幅広い層にも、議論や問題提議が広がれば幸いだと思います。次回は、社会人幻想論と選挙制度のデスマーチ化について触れたいと思います。

 

 

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-引用・参考-
※1 著者-堀江 貴文 発行者-見城 徹 発行所-株式会社幻冬舎   News Picks Books 
    「東京改造計画」 第二章 21項 ”低用量ピルで女性の働き方改革ピル”

 

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Photo by Jezael Melgoza on Unsplash