勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"ベーシックインカムが未来を醸成する日 1/2"

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。前回は、政治運営の盤石さが安倍政権の成果である旨、そして次期政権も中長期的(少なくとも任期期間満了)な政権を目指し、派閥構造は維持継続される旨を指摘しました。これらを鑑みると次期総裁は菅氏が最有力候補です。※この記事の執筆は9/7です。 (”陽炎から覗く ポスト安倍 の蜃気楼”)

 

 次に注目が集まる点は”政策転換”です。前回、指摘したように基本的な金融政策や外交路線は安倍政権を踏襲する”現状維持政権”にはなるでしょう。しかし、社会保障制度や行政システムは変革へ向けて待ったなしの状況でもあり、この課題解決が行えるのかが争点として注目されます。

 

 安倍政権は確かに盤石な政権でしたがその反面、国内の”変革”には弱い印象がありました。だからこそ、感染症によって社会変革への進化圧が加わったこのタイミングで、変革に強い総裁を起用することは重要な選択となります。そんな中、菅氏の増税発言が波紋を呼びましたが、これは菅氏が持つ”政策のリアリズム”が垣間見える発言でもありました。

 

 Twitterでも指摘したように、少子高齢化によって生じる社会保障制度の欠陥及び、財政負担の増加を鑑みれば長期的には増税の選択肢は必要となります。但し、それは予防医療の普及やデジタル行政によるコスト削減、ベーシックインカムのような社会保障制度の範囲拡大など、コスト削減の分野と所得安定化の分野で改革が行われる前提の元、成り立つロジックではあります。なので、巷で騒がれているような”増税アレルギー”は近視眼的には正しいですが、菅氏の文脈が長期視点であることを考慮すると、”リアリズムに基づく政策思考”として評価されるべきものでしょう。

 

 

 本日はこの社会保障制度や財政問題について、近視眼的政策判断ではなく、中長期視点の成長戦略として考察を行いたいと思います。 

 

「ベーシック・インカムの本質と実現性」2/2
第1項 "ベーシック・インカムは実現可能というマインドを醸成しよう"(アゴラ転載版)
第2項 "ベーシック・インカムという成長戦略の世界線で”

 

”余剰人材”と”少子高齢化”がもたらす社会不安

 本ブログでも再三指摘していますが、今般の社会課題で特筆すべきはやはり”余剰人材”と”少子高齢化”です。余剰人材に関しては、デジタル化の波と不況の煽りで世代を問わず就業難に陥る若しくは所得が著しく減少すると予想されます。現在は解雇規制によって非正規労働者が主な対象となっていますが、不況下での解雇規制が企業にとって”負債”となってしまうように、人材整理が滞りキャッシュがショートしてしまえば倒産やリストラとして、正規雇用にも影響が及びます。

 

 勿論、感染症由来の”新たな生活様式”なるものは長くは続かず、多くの場合は何事もなかったかのように消費も雇用も戻るでしょう。但し、デジタル化由来による省人化やESG投資由来の環境や持続性向上など、余剰人材への力学は多元的な要素からなり、中期的には向き合う必要性がある社会課題には変わりありません。

 

 少子高齢化は医療費や社会福祉費用の負担が年々高くなる反面、生産消費経済が縮小し歳入の減少へと繋がります。また労働人口も減少に向かい納税を背負う若年層の負担は増える一方でしょう。ここが冒頭の”長期的には増税もやむなし”となる根本理由です。

 

 次期政権が迎える日本の社会課題は ”省人化による格差や貧困” “高齢化による若年層への負担” など、如何にコストを削減し社会成長へ投資をするのか が重要な政策軸となる筈です。その解決策として、ベーシックインカム政策は有力な打開案となる可能性を秘めています。



■BI(ベーシック・インカム)

 先月、ドイツで18歳以上の120名を対象に3年間月々15万円を支給する実証実験が発表されました。他にもケニアやフィンランドなど世界各国で実験的に行われていてます。その目的は貧困を減らし、犯罪率や病気などの解消、教育環境の充実、社会保障の行政コスト削減など様々です。先に挙げたように日本も、省人化や少子高齢化に伴い、圧迫するコストを削減しつつ社会全体の成長へ繋がる投資を行う必要があり、ベーシックインカムの導入は重要な政策です。

 

 例えば、余剰人材(就職困難者や非生産的低賃金労働者)は最低限の生活費を確保することにより、”学び直しの機会” “職業選択の自由” ”健康の維持” など、精神的に余裕のある状態で挑戦的活動や消費活動を行うことができます。市場としても、解雇規制を緩和することが可能となるので、”企業体制の健全化” “新陳代謝による流動性” “過酷労働環境の淘汰” “消費の促進”など労働環境の改善や生産性の向上に繋げることができます。

 

 また、人口が減少し大量生産大量消費経済ではなくなった社会に於いて、ICT関連は当然ながら、クリエイティビティの必要な芸術や文化など、”利益率(生産性)が高い産業や資産として価値が醸造する産業”を構築する必要があり、そのためにも最低限の生活を保証することで、非生産的な労働から生産性の高いサービス開発へ挑戦するきっかけを生むことができます。

 

 これだけではありません。地方分散型や一極集中の是正、地方創生などが謳われていますが、現在は地域毎で最低賃金に差があり、リモートが可能なIT産業などしか地方に移住するインセンティブがありません。しかし、一律定額でベーシックインカムが支給されると物価の高い都市部より、物価の安い地方の方が圧倒的に”お得”ということになり、下手なインフラ工事などを行わずとも地方へ分散化が進みます。他にも、犯罪や自殺率の低下、結婚や出産への意欲向上など多くの作用が期待されます。


■予算と財源論

 ここまで必要性と効果について考察を行いましたが、それらを実現させるには財源問題についての議論が欠かせません。確保できる予算、人々の労働意欲を損なわない金額、現行の社会保障支給額(主に年金)を鑑みると、”成人に月々1人7万円ほど(未成年は半額)”となります。この金額であれば、切り詰めない限りこれだけでの生活は難しく労働意欲の低下は防げますし、かと言ってブラック企業で休日を返上し低賃金労働を行う人は減るでしょう。但し、介護や病気など一部の社会福祉を必要としている層にとって、7万では補えませんので、そこは臨機応変に対策が必要となります。

 

 さて、ここからは予算や財源の数字を追ってみますが、こちらは各専門家の皆さんが既に行われていますので、ここではイメージができる程度の簡単な”丼勘定”で表したいと思います(正確に知りたい方向けに下記の引用蘭にリンクを貼っておきます)。

 

○予算

【総人口】

 1億2,593万人(令和2年推定値)

【内成人】

 1億1,085万人(令和2年推定値)

【内未成年】

 1,508万人(令和2年推定値)

【必要予算】

 96兆7,332億円(月々7万円及び半額4万円)

 

○財源

【社会保障費代替】

 約  35兆円 (2020年度予算)

追徴税額

 約    9兆円 (7−11兆の中央値)

【医療費一律3割負担】

 約   16兆円 (6歳以下,70歳以上,低所得者対象) 

【消費税20%】

 約  40兆円 (10%の20兆円から単純計算)

【確保可能財源】

 約100兆円

 

 あくまでも「予算イメージができる」程度の単純計算ですが、概ね上記の内容に近いものになるのではないでしょうか。前述にもあるように、現行の社会保障費は代替(削減ではなく内包)することで約35兆円、税収に於いて毎年発生する”申告額との非違(追徴税額)”をデジタル管理で調査すると大凡7−11兆円は回収できると言われています。そして、国民に”給付と引き換えに負ってもらう負担”として医療費の一律3割負担と消費税の20%です。

 

 他にも、予防医療の義務化(健康診断や予防接種など)による医療費や介護費の削減、行政のデジタル化に伴う省人化、年金受給者の低下による負担軽減、国際的なデジタル課税などを含めると、予算の実現可能性は高まるように思います。今回の数値は正確な捻出方法を示したものではありませんが(正確な数字を出すには変数が多く、字数的に難しいので)、それよりも本稿では”ベーシック・インカムも実現できる”というマインドになって頂ければ幸いだと思っています。



 

 本日はここまでです。喫緊のポスト安倍は菅官房長官で決まりでしょう(※追記  やはり菅総裁となりましたね。この件は次の機会にでも触れたいと思います)。そして、恐らく次期総選挙もこの布陣は大きく変わらないと思います。人事も注目されますが、最大の目標は次期総選挙ですのでサプライズよりも手堅い”失点の少ない”布陣を目指すでしょう。

 だとすれば、重要となってくるのは前述のような社会課題と、国際情勢への関わり方です。国際情勢は秩序への ”責任” と ”貢献” がテーマとなり、西側諸国の覇権国家である米国不在の国際社会でイニシアチブを握れるのかにかかっています。

 国内の社会課題は、止められない省人化と人口減少の波をどう乗りこなすのか。デジタル化による”ニューノーマル”なるICT企業のポジショントークではない、新社会保障制度や人材の流動化、高利益率産業の再発見など泥臭く地道な改革が求められ、それこそが”ニューノーマル”の扉を開ける鍵となるでしょう。

 

 


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Image by Lars_Nissen from Pixabay

−引用・参考–

・ベーシックインカムが現実的でない2つの根拠雇用/海老原 嗣生

 

・【COVID-19】UBIの財源論:『みんなにお金を配ったら』『普通の人々の戦い』ほか/柏木 亮二

 

・2020 年度政府(国・一般会計)予算について-社会保障費を中心に-/日本医師会総合政策研究機構 前田由美子

 

・令和2年度 社会保障関係予算のポイント/主計局主計官(厚生労働第一担当)八幡 道典/主計局主計官(厚生労働第二担当)一松 旬