勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"Carlos Ghosn氏と司法制度の本質"

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。年の瀬からここ数日、SNSやマスメディアでは "Carlos Ghosn氏逃亡"についての報道で過熱しています。しかし、そこで議論がなされている多くは、"逃亡が犯罪である"ことや"逃亡の方法"、"関わった犯人探し"が主であり、"何故このような事態になったのか"  "この事案が与える影響"など、問題の本質が未整理のまま進められています。このポピュリズム的な"誰が悪いのか"とする"推定有罪報道"は他の事案でも往々にして行われ、謝罪会見や辞任、社会的追放といった抜本的解決に繋がらない形で結末を迎えるものです。ただ今回は国内だけの問題ではなく、国際的企業の外国人経営者が対象となった為、罪状の真偽は別として"推定有罪"扱いが国際社会に露呈し、日本市場の信用問題にまで発展してしまいました。本日は、この国際問題に留意して考察してみましょう。

 

「日産がもたらした司法制度の闇」1/2

第1項 "国際社会に発信された「日本司法の闇」"

第2項 "Carlos Ghosn氏と司法制度の本質"

 

■問題の発端
 この問題は18年12月の当ブログ【国際社会に発信された「日本司法の闇」】としても触れましたが、根底にあるのは日産の"コーポレート・ガバナンス"です。社内調査、取締役会の機能不全そして、捜査当局の介入や朝日新聞の先行取材、連行直後の日産による会見など、Carlos Ghosn氏の疑惑について真偽を問う以前に、企業の健全性と特捜の捜査手段に問題を感じてしまいます。少なくとも、日産の一部役員と特捜による社内問題への"権力介入"であり、事実上の"追い出し"と指摘されても、仕方がないのではないでしょうか。
 日産とRenault(Carlos Ghosn)の関係性が、通常の企業手続きでは対等な取引が出来なかったにせよ、財務更正の歴史も鑑みてコーポレート・ガバナンスで対応する事案だと考えます。

 

■日本の司法制度
 国際社会で問題とされるのは大きく分けて二つです。一つは"司法取引"による問題で、日本の制度は"捜査・公判協力型"とよばれ、"捜査に有益な自白を行えば罪に問わない"としており、捜査当局が対象にした人物や組織を捕まえる為、その部下や関係者に自白を迫るものです。これに対し米国は"自己負罪型"で”自身の罪を認める事"までも対象としているので、部下や関係者だけではなく"自身"も自白による減刑が可能となっています。自身が自白するのかは別の問題としても、米国の場合は減刑の機会が平等に与えられていますが、日本では一方通行な制度と言えます。
 そして次に”人質司法”です。”人質司法”は制度ではありませんが、逮捕状と勾留状に基づく計23日間しか同一容疑で取り調べが出来ないにも関わらず、自白をしない場合は”別件逮捕”などを用い長期間身柄拘束を行う事を指します※1。当然ですが自白がなければ、証拠隠滅の恐れがあるという理由により、保釈もされる事はありません。また、日本経済新聞の記事 "海外から「異質」に映る日本の刑事司法制度"に分かりやすく纏められていますが、他国で認められる”取り調べの弁護人立ち会い”が日本ではありません。

 このように"推定無罪"であるにも関わらず、一方通行な司法取引が行われ、弁護人が不在の中、長期的な身柄拘束によって自白が迫られていることが実情なのです。

■問題の本質と対応
 多くのメディアでは"逃亡が犯罪2である旨が強調されていますが、先にも述べたように問題の本質はそこではありません。勿論、保釈条件と出入国管理法違反に相当するので、罪に問われて然るべきですし、入国管理庁の検査体制と幇助した(Carlos Ghosn氏を含む)組織が安全保障を脅かす大きな問題であることは事実でしょう。しかし冒頭でも触れたように不法出国や罪状の真偽そのものは、切り離して議論されるべきです。
 今回の問題は徹頭徹尾、日産(国際的な日本企業)の企業問題に、検察権力が介入し、時代錯誤な司法制度で外国人経営者が人権を侵害され生じる"日本市場への不信感"が焦点にあります。そして更にCarlos Ghosn氏が逃亡したことより、この問題が国際社会へと発信されてしまいました。この結果がもたらす代償は、想像よりも遥かに大きいでしょう。何故なら、"外国人経営者は不当な扱いを受けるのでは"と、人材や資本の日本参入へネガティブな影響を与える恐れがあるからです。内需が先細りする日本にとって外資や人材の流入がどれ程重要かは言うまでもありません。この事を鑑みて、日産や司法当局、マスメディアは、罪状の真偽だけではなく"司法制度"について、国際社会へ明確に情報を発信しなければなりません。また、外圧によってでも現行の司法制度を見直す議論を深め、取り組む必要があるでしょう。
 テクノロジーの発達により、技術や市場だけではなく世界の金融、国家システムまでもシームレス化が加速する現代に於いて、国際社会との対話は日々重要性が増しています。司法のようなドメスティックな制度でも同じ力学が働きます。それを踏まえた上で今後、Carlos Ghosn氏の行動を注視し、国際社会へ向けての"対話"を務めていくべきでしょう。

 本日はここまでとします。今回はCarlos Ghosn氏の問題を取り上げましたが本件に限らず、日本は如何せんドメスティックに向かう傾向にあります。経済では既にグローバル競争に晒されていますが、政治や制度設計ではまだまだ対応が進んでいません。今般は内向きのシステムであったとしても、国際的な多角的観測を用いて、再構築する事が求められているのです。

 

 

 

※記事を読んで下さる皆様へ.本稿の内容に興味をお持ち頂けたなら、大変に光栄です.

  有難うございます. お気軽にTwitterで交流をして下さいね. 

[黒川 和嗣(Kazushi Kurokawa)Twitter ]

 

f:id:KKUROKAWA:20200207224827j:plain

Photo: Bill Oxford

kazushikurokawa.hatenablog.com

 −参考−

※1人質司法 - Wikipedia