勾玉日記

黒川 和嗣のブログです。

"COVID-19 国民感情が引き起こす作用 1/4"

 黒川 和嗣(くろかわ かづし)です。今回はCOVID-19(新型コロナウィルス)に関連した考察を行いたいと思います。ただ、医学的な知見やFinanceなどに関しては各専門家が既に取りまとめて下さっているので、ここでは視点を変えて政治、経済を軸に”国民感情が引き起こす作用”について考察を行います。

「COVID-19 国民感情が引き起こす作用」1/4

第1項 "政策決断に於ける3指標"

第2項 "ディストピア的出口戦略"

第3項 "イシューがTwitterの果てに"

第4項 "自粛という延長と延命の狭間"

 

 

■政策決断に於ける3指標
 国民感情とは、政府が決断を行うときに影響を与える、外交、経済と並ぶ謂わば”3指標”の1つです。この中でも”国民感情”は歴史的に有事の際に作用し、政治的合理性を逸脱した政策決定を政府に迫ってしまいます。今回のケースで考えると初動に於いては、中国との”外交”、そしてインバウンド需要の”経済”を軸足として置いていたことが伺えます。特にインバウンド需要の増加を前提として増税に踏み切り更に、中国との友好化を海外需要のアンプリファイヤー(増幅装置)として成長戦略を構築していたので、文字通り”出鼻をくじかれた”状態でしょう。長きに亘り内需頼みだった日本経済は少子高齢化により行き詰まり、2020年から本格的に外需を取り込む政策へ一気にシフトする最中でしたので、泡を食っても仕方がないところではあります。

 そして次に入港を許してしまったDiamond Princess号では、後の情報を鑑みる限り外交的処置は行ったものの、医学的処置は現場での判断として扱われ、政府としてのコミットメントは高くはなかったのではないでしょうか。医学的な情報が少なかったこと、受け入れ体制の確保が困難であったこと、多国籍の外交問題であったことが要因のように思えます。本来であれば”医療の知見”を優先すべきでしたが、ここでも”外交”を選択せざるを得ずその結果、神戸大学医学部の岩田 健太郎教授を通して国内外へ”日本の対策不足”を発信されることとなってしまいました。ここから、政府の動きは徐々に”外交” "経済” から”国民感情”へと移行することとなります。

 

■"Trade-off"の現実
 この初動とDiamond Princess号の問題が、自民党の支持層とマスメディアに”不信感”として広がり始めると時を同じくして、日本で初の死者や渡航歴のない感染者が発生してしまい、不信感から恐怖へと変わり”国民感情”が政治へ影響を及ぼすまでとなります。これまでが最適解であったかは別としてもある種、政治的合理性の中で対策が決定されていました。しかし、国民感情が連日マスメディアの報道によって”果敢な対策”を求めるようになるとその圧力が作用し、イベントの自粛要請や全校休校など大規模な対策を行い、実経済を置き去りにしてしまいました。

 そもそも日本の課題として扱われだした頃から、マスメディアを始め多くの論調は”海外との渡航停止処置”でした。この類いの処置には海外由来の問題対処として一定の成果を上げるので、私自身もその論調には賛同します。しかし、飽くまでも”最初期”の段階で”迅速に”行うことを前提とします。何故なら、既に感染が拡大している状態では、さほど効果が期待できず、それ以上に関連事業(今回は観光業)への損失が大きくなってしまうからです。これは費用対効果、つまり”Trade-off”の関係で、どちらを選択すべきかということです。特に疫病では、終息に長期間必要とすることが多く、エコシステムを先に止め、医療のリスクヘッジとコスト算定を全力で行うことで経済的損失が発生したとしても、回復フェーズへの移行判断を、素早く行うことが可能となるからです。ただ残念ながら、今回は先に経済や外交が優先され、医療が後手に回ってしまい、国民感情の悪化と共に経済の首もゆっくりと閉めることとなってしまっていました。

 

 今般、国民感情に煽られ過度な自粛ムードが強調されていますが、"Trade-off"の観点で考えた場合、果たして経済を大規模に、そして長期的に痛める必要があったのか、国民感情に内包される”恐怖”は連日のメディアにより形成された”目に見えない”ものではないでしょうか。過度な自粛による経済損失は一部事業者や労働者の経済活動を破壊し、破産による自殺率や失業率を大きく高めてしまいます。勿論、病気による死亡者数を持ち出し何%だから良いなどと、人命を数値で切り捨てたくはありませんが、ゼロリスクは存在しない世の中で、これもまた経済的死亡者と病気による死亡者の"Trade-off"であることを自覚し、メディアは情報を取り扱い、個人は発言をしなければならないでしょう。

 少なくとも、私達は何と"Trade-off"をしているのかを、意識しなければなりません。

 

 今回はここまでとします。政府の対策は必ずしも正しい訳ではありませが、短絡的な保身や"何も考えていない"とも言えず、多くの場合は一定の政治的指標、"決断に於ける3指標"に従って判断されている事が伺えたと思います。そして選択を迫る時は必ず"Trade-off"も発生し、何かを促す時に何を失うのかコスト算定を丁寧に行う必要があるものです。

 次回は出口戦略をテーマに"COVID-19 国民感情が引き起こす作用"を考察したいと思います。

 

 

 

※記事を読んで下さる皆様へ.本稿の内容に興味をお持ち頂けたなら、大変に光栄です.

  有難うございます. お気軽にTwitterで交流をして下さいね. 

[黒川 和嗣(Kazushi Kurokawa)Twitter ]

 

f:id:KKUROKAWA:20200318190504j:plain

Photo by Fusion Medical Animation on Unsplash